実験作品としての「LEGO Technic 虎の巻」

「PDFファイルとしてのみ存在する本」は、はたして市民権を得ることができるのか?

 


ここでは、この本の実験性について簡単に紹介します。

 


「紙」という制約からの開放

この本は、 約80MバイトのPDFファイルで提供されます。215ページ、フルカラー、写真点数1700超。

そもそも、この本を作ろうと思い立ったきっかけは、拙著「レゴのしくみで遊ぶ本」の絶版でした。初版、改訂版を合わせて、12,000部を出版したのですが、欲しい人に行きわたる前に絶版。復刊ドットコム(http://www.fukkan.com/fk/VoteDetail?no=27314)でも、170人を超える方々が、復刊を希望しています。(170人の熱望コメントを読んでいると胸が熱くなります)

また、アマゾンの中古市場やヤフーオークションでは、定価2000円のこの本が、 7000〜10000円で取り引きされています。私自身もLEGOブロックを教材にしている塾を取材したことがあるのですが、この本を持っている子供が半分ぐらいいて、残りの半分の子供たちは「欲しいけど入手できない‥」という状況。著者として、とても申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。

復刊ドットコムの担当者と私で、出版社に何度も復刊をお願いしたのですが、いろいろな理由から「復刊は無理」とのこと。復刊ドットコムサイドからは「全冊買い取り」「版権譲渡」「PDF 化」などの案も出してもらったのですが、答は「ノー」。

この本を欲しがっているすべての子供たちに届けたい − 著者が、どれだけそれを望んでも、版権を持つ出版社が首を縦に振らないかぎり、それが実現できないのです。

同じことを絶対に繰り返したくない − これが、新しい本を PDFファイルという媒体にした理由です。

ちなみに、新しい本は、「レゴのしくみで遊ぶ本」のコンセプトを引き継ぎながらも、内容は一新、新しい部品にも対応し、作例も倍増しています。

もちろん、 PDFファイルにしたことで、逆に本にアクセスできない子供たちが発生することも承知しています。また、「LEGOブロックを組み立てる場所のそばにパソコンが必要となる」「本としての物理的な価値感や購入満足感が満たされない」など、 PDFファイルであるがゆえのマイナスもあります。ただ、紙媒体での提供を拒んでいるわけではありませんので、ある程度の売り上げが出たら自費出版するか、出版社からコンタクトがあれば 「PDFでの配布は継続」を条件に交渉するつもりです。

なお、 PDFファイルにしてみて、とても便利になったと感じたのは「写真を拡大できる」という点。細かい部分の組み立て方や部品の特定が紙媒体よりもずっと簡単になりました。

 


「言語」という制約からの開放

言語による制限を受けることなく、世界中の子供たち(と子供の心をもった大人たち)が、この本を楽しんでくれることを夢見ています。

もともと、「レゴのしくみで遊ぶ本」も 「MINDSTORMS NXT オレンジブック」も写真中心で、文字の少ない本でしたが、今回は、思い切って文字をなくしてしまいました。

1ページ目の「表紙」、2ページ目の「日本語による本の説明」、3ページ目の「英語による本の説明」。文字が出てくるのはこれだけです。4〜215ページには、ほんの少し数字が出てくるだけで、それ以外の文字はありません。

動物や自然の写真集のような本は、言葉の垣根を越えて世界共通で楽しめて当然ですが、この本のようにテクニカルな情報を、写真だけで伝える本は珍しいと思います。

ディファレンシャルギアなど、ちょっと複雑なしくみは、できるかぎりイラストで説明していますが、言葉足らず(言葉がないのだからあたり前ですが)な感は否めません。このあたりの部分は、各国、各地域、各教室や各家庭、インターネットの掲示板などのコミュニティが解決してくれるのではないかと思っています。

 


配布は一切自由、継続使用する場合は代金を‥

商用目的でないことを条件に、配布を一切自由としました。

メールでの配布も、CD-Rに焼いての配布も、プリントアウト状態での配布も、サーバーに置いての公開も、すべてOK。とにかく、「世界の津々浦々までこの本を届けること」を一番の目標としています。

そして「継続して使用する場合は、1000円または10ドルの代金を払ってください」。つまり、本のシェアウェアです。

支払い方法は、次のようなものを用意しました。

国内は、ゆうちょ銀行振替(旧郵便振替)、銀行振込とPayPal。国外は、PayPalとKagi。

実は、今回一番苦労したのは、このマイクロペイメンツ回りのことでした。シェアウェアなどの代金を支払ったことはあるのですが、受け取る方は未経験。受け取るために何をしたらいいのか? どの業者を選んだら良いのか?手続きは? 手数料は?‥。人に聞いたり、不慣れな英文と格闘したり‥。

当初は、500円/5ドルの価格にする予定でしたが、思いのほか手数料がかかることを知り、1000円/10ドルにしたしだいです。

今後、インターネットで、もっと簡単に安価に少額の支払いや受領ができるようになるといいなぁ − とつくづく感じました。



以上、世界に広まるんだか/広まらないんだか、お金がもうかるんだか/もうからないんだか − 全く先の読めない状況でのリリースです。

もし、お近くにLEGOやLEGO Technic、MINDSTORMSに興味を持たれているお子さまやおじさま、おばさまがいらっしゃいましたら、ぜひこの本のことを教えてあげてください。

絶対に書店や図書館に並ばない本です。みなさんの口コミやブログやホームページでの紹介だけが頼りです。何とぞ、よろしくお願いいたします。

なお、このページの記載について、外部への転載、転送は一切自由とします。(全文も一部抜粋も自由です)

 

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2007年10月 五十川芳仁(いそがわよしひと)